受注生産でコストは下がるのか? 服の生産にまつわる数字のこと➀
最近生産手配のサポートをするようになり、
SNSやWEB上での色々な議論が目に留まることが増えました。
弊社の依頼者からの疑問とも重複する部分があり、
少し整理とまとめをしてみようと思います。
3回シリーズです。
1)受注生産でコストは下がるのか?
2)サンプル開発でどのくらいの時間とコストがかかるのか?
3)量産の値段は何枚から変わるのか?
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1)受注生産でコストは下がるのか?
この問い関してはNoと答えています。
コストが下がるのは原則数量とタイミングです。
その工場の閑散期に、工場にとって一番効率がいい数量で
投入できればコストは下がります。
では、それはいつで何枚なのか?
これは完全にケースバイケースです。
つまり上記のコストを下げる最適なタイミングと数量をつかむには
工場との信頼関係(もっと言えばキーマンとの人間関係)に尽きます。
工場の経営状況に配慮できれば、一番良いですが、一般的には
そこまで深く突っ込むのは難しいでしょう。
(発注側が工場の経営状況分かっていてギリギリのところで発注する、
という問題もありますが、それはまた別の問題です。)
なので、普段大量に服を作るわけではない人はコストを下げることを
過度に意識しない方が良いと思っています。
それよりも商品企画や販売の仕組みをブラッシュアップすべきです。
ちなみに受注生産をすることで”コスト”は下がりませんが”販売価格”は
下げられます。今や周知されつつありますが、日本のアパレルは約半数
が店頭に出ることなくシーズンを終えます。
この売れ残りを赤字で販売したり、廃棄したりします。
だから会社経営上、赤字にならないようにここでのロスを踏まえた
販売価格に設定します。
ロスが無いのであれば販売価格は下げられるのは間違いないです。
実際に数字で考えてみます。
1000枚生産で2500円
600枚生産で3500円の
商品を企画した場合を考えます。
A)在庫生産型
1万円で商品を500枚販売。定価での消化率は50%。
売れ残り500枚。半額セールで250枚販売。残りは廃棄。
店頭の販売価格から見た原価率は25%。
B)受注生産型 価格重視タイプ
6000円で商品を1000枚販売。全て受注生産で定価での消化率は100%。
売れ残りはゼロ。
店頭の販売価格から見た原価率は40%強。
C)受注生産型 付加価値重視タイプ
10000円で商品を600枚販売。全て受注生産で定価での消化率は100%。
売れ残りはゼロ。
店頭の販売価格から見た原価率は35%。
A) | 販売価格 | 枚数 | 売上 | 原価 | 粗利 |
| 10,000 | 500 | 5,000,000 | 1,250,000 | 3,750,000 |
| 5,000 | 250 | 1,250,000 | 625,000 | 625,000 |
| 0 | 250 | 0 | 625,000 | -625,000 |
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| 1,000 | 6,250,000 | 2,500,000 | 3,750,000 |
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B) | 販売価格 | 枚数 | 売上 | 原価 | 粗利 |
| 6,000 | 1,000 | 6,000,000 | 2,500,000 | 3,500,000 |
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| 1,000 | 6,000,000 | 2,500,000 | 3,500,000 |
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C) | 販売価格 | 枚数 | 売上 | 原価 | 粗利 |
| 10,000 | 600 | 6,000,000 | 2,100,000 | 3,900,000 |
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| 600 | 6,000,000 | 2,100,000 | 3,900,000 |
粗利は計算すると上記のような感じになります。
受注生産の方が少ない売上で同様の粗利が上がることが分かります。
B)では販売価格が下げられていますね。C)では生産量を減らせています。
A)は原価の損以外に経費として保管コスト・廃棄コストが発生します。
(250枚くらいなら無視できるレベルのコストですが・・・)
何より大きな差はA)の場合は売るための販売コストが発生しますが、
B)C)の場合はそれが無い、という点です。
もちろん事前受注の集客のコストはかかりますが、集まらなければ販売しない
ので、生産後に販売コストは発生しません。
ただ、B)C)はスケールしにくいです。そのため、大企業アパレルではA)を基本
とするはずです。この場合は在庫コントロールや生産管理オペレーションなど
様々な課題をいかにクリアしていくかが商品以上に勝負になると考えています。
個人的には中小アパレルはB)C)の受注生産型を中心にするのが良いのかなと。
デザイナーブランドは違うと思いますが。
受注生産に関しては、コストを下げるためではなく
ムダ・ロスをなくせることが一番の効果です。
その結果、ブランドの考え方によっては販売価格を下げることができる
というのが正しい認識ではないかと考えています。